「交響詩ジャングル大帝によせて」 指揮・藤岡幸夫
僕が中学生のころ「惑星」といえばホルストではなく冨田勲で、「月の光」「火の鳥」「ダフニスとクロエ」・・・・みんなLPで持っていたし(当時冨田さんはシンセサイザーで次々とアルバムを発表して世界的な大ヒットを飛ばしていた)、これらの素晴らしいレコーディングはCDになってからも全部買いなおして持っていた。ヨーロッパやオーストラリアのオーケストラに指揮しに行くとリハーサルなどの休憩時間に必ず「トミタ知ってるか?」と聞いてくる団員さんがいる。それほど今でも世界中にトミタ信者がいる。そんな冨田さんと去年初めてお会いする機会ができた。冨田さんが作曲した新作のファンファーレを僕が指揮することになったのだ。立体的な素晴らしい作品だったが、そのとき初めて、冨田さんはシンセサイザーを使う前は、「ジャングル大帝」「リボンの騎士」をはじめテレビや映画などでの売れっ子作曲家だったことを知った。しかも交響詩「ジャングル大帝」という作品があると知って、すぐそれをコンサートで取り上げることを決めてしまった。
初めてこの交響詩「ジャングル大帝」のスコアを勉強したとき、その冨田勲さんの凄さに改めて感動したし、冨田=シンセサイザーというイメージも吹っ飛んだ。冨田さんは当時たまたまシンセサイザーという新しい楽器に興味を持ってアルバムを作っただけで、元来はオーケストラを使って独自の世界を創りあげる素晴らしい作曲家なのだ。冨田さんの音楽はクラシック、ジャズ、ポップス・・あらゆる要素やアイディアが自然に融合して立体的に響く。そして何より冨田さんの音楽はスケールが大きいだけでなく優しい・・・!
「ジャングル大帝」での冒頭の序曲やフィナーレはまさに交響曲のように雄大だ。お話にそってまるで絵本のように色彩豊かに音楽が流れるがそこには優しさが溢れる・・!
パンジャが殺されエライザもつかまり貨物船で運ばれるという悲しいストーリーの中で、その貨物船の中でレオが誕生するが、ここで冨田さんは楽しい旋律と見事なオーケストレーション(チェレスタのソロや金管楽器のマウスピースや弦楽器の特殊奏法でネズミたちの愉快な姿が目に浮かぶ!)で聴き手に希望を与えてくれる。また母親のエライザとお別れして大きな海で独りぼっちになったレオをお魚サンたちが励ますシーンでは、指揮をしていても思わず笑っちゃうくらい楽しく優しい・・!
そして「星になったママ」・・・。お魚さんたちと別れて夜がやってくる。寂しくなったレオを星になったママが励ますシーンで、冨田さんはとてもシンプルなオーケストレーションで見事に表現するが、その美しさは指揮していても涙が出そうになる・・・。
冨田さんの「ジャングル大帝」の音楽は生きることそのものなのだ。悲しさ、辛さ、それを乗り越える勇気、友情そして優しさ・・・。冨田さんが音楽を語るときの瞳はまるで少年のようだ。前述した冨田さんの新作のファンファーレは、大きな競技場の四方に金管グループを配置する奇想天外なもので、僕が「こんなに離れてたら無理ですよ」と言ったときの冨田さんの答えは本気で「いつか月と地球とでやろうと思ってるんだからこれ位の距離はなんでもないよ」だった・・。
ところでこの「ジャングル大帝」フィナーレは冨田さん自身満足がいかずレコーディング後に新しく書き直された。そして新たにその曲を録音しなおしたが、その新しいフィナーレはより力強くスケールアップされていて冨田さんのこのCDにかける想いが伝わってくる。少年のような夢をもち続ける冨田さんの素晴らしい音楽をできる限り多くの方たちに楽しんで欲しい。
藤岡幸夫
(ブックレットより転載)
藤岡幸夫 プロフィール
1962年東京生まれ。幼少よりピアノ、チェロを学ぶ。指揮法を故渡邉暁雄、小林研一郎、松尾葉子に師事。 サー・ゲオルグ・ショルティのアシスタントを務める。慶応義塾大学文学部卒。英国王立ノーザン音楽大学指揮科卒。日本フィル指揮研究員を経て90年に渡英。92年マンチェスターにて最も才能ある若手指揮者に贈られる 「サー・チャールズ・グローヴス記念奨学賞」 を日本人にもかかわらず特例で受賞。同年ルトスワフスキ・フェスティバルにて作曲者の前で 「管弦楽のための協奏曲」 を指揮、英ガーディアン紙に 「計りしれなく将来を約束された指揮者」 と絶賛される。





