
執筆:
平原日出夫先生(元NHKチーフプロデューサー/元実践女子大学教授)
第9回
心の居場所はどこにある? ~全員野球のラジオ局~
●はじめに
彼(かれ): 前口上役の彼(かれ)でございます。早速ですが、本日(五月十六日)、民主党の代表選挙があり、たった今、鳩山由紀夫代表と決まりましたね。全員野球の新しい政権がこの秋には実現するやも知れませんね。
ところで、つばさが打ち込む「ラジオぽてと」の方もいよいよ誕生しましたね。これは、真瀬社長とつばさとの二人の、文字通りの開局奮闘記でしたね。
此(これ): 二人の無手勝流のその奮戦記が面白かったな。世の中が不景気なだけに、この種の元気をかき立てる話もいいものだね。
彼: 私には、今週は今までとは話の流れというか、運びが違うように思えてなりません。此(これ)さんはどうです?
此: 私も同感だね。どこが違うかね?
彼: まず、分かりやすかったことです。話の筋に無理がないことです。
此: それはつまり、ストーリー構造が原則的に一本化された形で構成されているからだと思うね。ストーリーを主筋・副筋に分けると、今回は主筋が太く判然(はっきり)としていたことにあるようだね。
彼: たしかに。今週の主題は「ラジオぽてと」開局記念放送までの奮戦記で、それがメインストーリー(主筋)として構成されてましたね。
●単線的でわかりやすい構成
彼: つばさが奮戦記の推進力となり、ヒロインらしくうまく描かれてたしね。
ます月曜放送分。真瀬社長は権柄(けんぺい)ずくで二郎にギャク禁止令をだし、二人は対立する。音楽担当の浪岡はレコード購入をめぐって経理の伸子と対立。みんな自分を主張し合ってバラバラ。つばさはその間でソワソワする。火曜日では、つばさは携帯で翔太に、スタッフが一つになる方法を尋(たず)ねる。答えは。一人一人にぶつかって聞くほかないという。水曜放送では、つばさは翔太の言葉を信じて、真瀬・二郎・伸子・浪岡たち一人一人に真剣に向きあう。それで分かったことは、みんな自分の「居場所」を探しているということです。
此: 人はそれぞれの居場所を求めて生きているという、一つの人生哲学を、若いつばさは発見するわけだね。彼女がスタッフ全員に体当たりし、その言い分を聞き、一喜一憂し、もがきながら、「ラジオぽてと」というもう一つの家族を発見するというのが今週の大テーマだったわけ。その意味では単線的で明解な構成でした。
彼: その主筋がストーリーの大きな流れとして設定されてたのは確かです。今週はそれが特に鮮明でしたね。
●「居場所」の発見は人間の発見
伝(でん): 単線的流れとは言っても、今週のストーリーにはやはりいくつかの副筋がみられたね。まず月曜放送分のラスト。つばさが帰宅すると、祖母千代から《ラジオ局勤務か甘玉堂の女将か》に二者択一を迫られる。つまり店の跡継ぎ問題で、これが副筋1。
彼: その副筋1は火曜放送分にも引き継がれてましたね。千代の厳しい決めつけに、つばは反抗して「腕のいい職人を養子にもらって、結婚し、店を継げばいいんでしょ」と口走る。あれはリアルな女の感情ですね。
彼: 余談になるけど、あのセリフで改めて感じたことは、玉木家では祖母千代・母加乃子と少なくとも二代続いて婿取りをしたということ。もしかして、つばさも婿取りすると、三代続きの婿取りということになる。
此:いや、千代の母も、そのまた母も、代々婿取りをしていたかもしれない。つまり女系家族なんだね。
●もう一つの居場所
此: 話を副筋に戻すと、「ラジオぽてと」発足までの流れを追う主筋を軸として、いくつかのサブストーリー(副筋)が絡めてある。甘玉堂の後継問題(副筋1)はその一つで、ほかに父竹雄が娘つばさに卒業祝いに贈る言葉もある。これは母加乃子が家を出た真実の消息で、加乃子はただ夢を追って家を出たのではなく、そこには母親千代との親子の確執があったと打ち明ける。厳しい千代は懸命に家業に励む加乃子を跡継ぎとして否定し、3才のつばさを女将にすると決める。
彼: そう決めた理由は、斉藤とのあの事件かな。玉木家は女系家族で女家長ですからね。
伝: ともかく、それが女将としての千代の決断だね。女家長の決断はつねに母娘(おやこ)の葛藤というドラマを生みだし、それが玉木家の伏流水として流れている。このことが副筋2だね。
此: 同時にそれは母加乃子と娘つばさとの間の問題でもあるよね。女としての夢と現実との衝突とか、主婦の座をめぐる確執とか、副筋3、副筋4といくつもある。
彼: 竹雄自身の来歴とか、先代梅吉に引き立てられた話など、父の娘への語り自体が大事な副筋ですよね。
伝: それらの副筋が《ラジオ局開設奮戦記》の主題にうまく絡みあいながら、単線的な太い線をつくりだしていたね。全体に均整のとれた構成だったと思うね。
彼: 自閉症的な浪岡がギターを質に入れてレコードを買い、放送で流すというのは、ホント感動しました。全員野球のラジオ局の誕生でしたね。では、今日はこの辺でお開きに。(2009.5.17)
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