
執筆:
平原日出夫先生(元NHKチーフプロデューサー/元実践女子大学教授)
第3回
さよなら「甘玉堂」~消えゆく老舗~
●ひたむきなヒロインと演技陣
A: ストーリー展開はずいぶん急ピッチだね。「甘玉堂」の借金を知った加乃子は店再生計画を立て、中古の菓子自動製造機導入を進め、試食会も行い、自分名義で1000万円を借り、契約したとたん、仲介業者がサギ常習犯というテレビ報道があり、計画は水の泡と消える。つづいて、「甘玉堂」の経営自体が怪しくなる。
B: 店の財政危機が露(あらわ)になるにつれ、家族の人間たちの姿もハッキリしてきたね。機械導入の急先鋒(きゅうせんぽう)加乃子、猛反対の女将(おかみ)の祖母千代、その2人の間で揺れる≪やじろべえ≫人間竹雄。職人頭としては祖母に従うものの、その心は一も二もなく妻加乃子側。
A: 手作りと機会による甘玉の食べ比べ(第8回)では、加乃子は夫の心を読んでウソをいわせ、機械派に組み入れてしまう。
B: その父を責めるヒロインつばさの演技が光る(第8回)。ヒロインとして光る演技はほかにも目立つ。斉藤興業社長が現れ、「甘玉堂」の買収の話を切り出すと、つばさは必死に反対して言う。「小松菜を買いにきてなかったら主婦は困るし、悲しい」(第10回)と。そのヒロインの熱演同様に、作者のこのセリフも秀逸。ジンときたね。そのつばさをみつめる斉藤もジンときている。そしてそのあとに、女将(おかみ)千代が言う。「店と土地を手放します」と。
A: 同感。暖簾(のれん)と家を守ってきた女将(おかみ)の存在感がいい。加乃子に拾われ職人頭になった夫竹雄の哀れさもいい。
B: 存在感といえば、「甘玉堂」の菓子職人たちとの会話場面がやっと出てきたね(第9回)。給料下げてくれても結構という短いシーン。つづく第10回では、祖母が職人たちに退職金と給料を払うシーンで、どちらもごく短いもの。こういうところにドラマの質感や存在感が表れるんだがね。それが不足なのが惜しい。
C: その通りだね。昭和40年代ホームドラマにはそれがあったね。「肝っ玉かあさん」のソバ屋にしても、「貫太郎一家」の石屋にしても、職人たちとのドラマがあったね。
●「遺影」と「ラジオの男」
C: その代わりというか、それらにはなかったもの、いやあったけどごく弱かったものが「つばさ」ではグンと強められてるものがある。
A: 何です、それは?
C: 「遺影」だよ、先代の写真。祖母千代の夫のね。この「遺影」が毎回のように画面に出てくる。多い日には3回も出てくる(第11回)。これは相当に意識的な出し方で面白い。
B: ぼくも気付いてたけど、これは例の「ラジオの男」と合わせて考えたいと思ってましたが。
C: 「ラジオの男」は若いヒロインつばさの分身的な存在だよね。女の子の分身が男、それも中年男というのは、あるいは分身以上の存在、超存在者(スーパー・エグジステント)かもしれない。「ラジオの男」は人間的で分身的な側面と超能力者的側面の二つを伴わせもっている。それはあくまでもつばさ本人にしか見えない、心の中の存在。一方の「遺影」は家長の象徴として誰の目にも見える、いわば公的な存在者。千代個人の心の中では、つばさ同様の心的現象が起きるのかも知れないが、いずれにしろこの両者、「ラジオの男」と「遺影」は何かにつけ映像化され繰り返されるのが特徴的だね。
●母娘(おやこ)の愛と憎しみのドラマ
A: そうか、「遺影」・「ラジオの男」のこちら側にはサンバダンサーと泣き笑いの人生があるというわけか。
C: 生と死のパノラガマがね。
A: えーと、玉木家には生きた象徴がもう一つある。実にイキイキしているもの。Bさん、何だと思う?
B: 何だろう?茶の間かな。
A: うん、それもあるけど、もっとイキイキしてる。
C: 喧嘩だろ。千代と加乃子の母娘げんかだろ。
A: ご名答。この母娘の喧嘩には力がある。
B: 愛と憎しみのパワーだな。
C: そうそう。愛があるから憎しむんだし、憎しみが消える時は愛もまた消える時だよ。
B: 愛といえば、斉藤興業社長ヒロリンの加乃子への愛もいい。格好はヤクザっぽいが、加乃子への至純の愛があるようだ。それは「オレはカノンの思い出だけで十分」(第9回)のセリフに表れている。キザだけど、彼流の表現だね。第10回で彼が「甘玉堂」の家・土地を買い取る話にしても、儲け仕事ではなくて、カノンへの彼の無償の行為だろうね。とすれば、その無償の行為が彼を「甘玉堂」の救世主に仕立て上げるだろうね。
A: すると竹雄の加乃子への愛はまさにカノン信仰(観音信仰)だね。
●愛と哀しみの街
C: まだほかにも話したいことが沢山あるが、印象的なのを二、三加えておきたい。第11回で祖母がつばさに告げるシーン。「大事なのは伝統のある場所や蔵作りの店ではなく、≪いい味≫さえ作ればいいということ、私はそれを見失っていたわ」と言って、つばさに礼を言う祖母。その祖母は「遺影」を壁から外して持ち去り、つばさは黒塗り店にむかって深々と頭を下げる。あとには、つばさ・知秋姉弟が柱に刻んだ背比べの跡が・・・。
A: あのシーン、印象的でしたね。ジーンとしましたね。
B: これからの君をジーンと呼ぶことにするよ(笑い)
C: 私はテネシー・ウイリアムズ原作の映画「ガラスの動物園」をなぜか思い出したね。あの冒頭の荒れはてた廃屋シーン、主人公トムがかつてそこで過ごした日々を回想する場面をね。
A: やはり盛り沢山の第2週というべきでしょうね。
(2009.4.14)
第2週の整理店・論点
● 以下の三つはそれぞれドラマの推進力といえる。それぞれについて考えてみること。
(1)劇中の「遺影」写真について。
(2)「ラジオの男」について。
(3)母娘(祖母千代・加乃子)の愛憎について。
(4)テレビ小説「つばさ」の家族成員の性格について。
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